築年数が経った戸建て住宅をリノベーションするとき、最も気になるのが「この家はどこまで強くできるのか」という点です。見た目を新しくしても、地震に耐えられなければ安心して暮らせません。
実際、リノベによる耐震性能の向上は可能ですが、建物の構造や基礎の状態によって上げられる限界が存在します。耐震等級3を目指せるケースもあれば、基礎や柱の条件により等級2程度までしか現実的に上げられない場合もあります。
今回のお役立ちコラムでは、耐震診断から補強設計、そして実際の改修工事まで、リノベで耐震を高めるための具体的な実務と注意点を解説します。
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リノベで耐震性能を高めるための現状把握から

耐震改修の第一歩は、今の家の現状を正しく知ることです。どんなに新しい建材を使っても、建物の基礎や柱の状態が悪ければ十分な強度は得られません。そのため、最初に行うべきは「耐震診断」です。
建物全体の強さ・弱さを数値で可視化し、どの部分に力が集中しているか、どの方向に倒れやすいかを分析します。診断結果をもとに、どの程度の耐震等級を目指せるかを判断する流れです。耐震リノベの成否は、この診断の精度にかかっていると言っても過言ではありません。
耐震診断で見える強い家・弱い家の特徴
耐震診断では、壁の量と配置のバランス、接合金物の状態、基礎のひび割れや沈下などを総合的に確認します。一見きれいに見える住宅でも、壁の位置が偏っていたり、開口部が多すぎると、地震時にねじれやすくなります。
とくに昭和期の住宅では、柱と梁の接合が金物ではなく釘止めのままになっていることが多く、これが倒壊リスクを高める要因です。診断は目視だけでなく、図面や構造計算をもとに耐力壁の量を数値化して評価します。
必要に応じて床下や天井裏にも入り、腐朽やシロアリ被害がないか確認。この段階で弱点を明確にしておくことで、後の設計が無駄なく精度高く進められます。
耐震等級の基本と目標設定
耐震リノベを考える上で欠かせないのが「耐震等級」という指標です。これは住宅性能表示制度で定められた地震への強さを表す基準で、等級1〜3の3段階に分かれています。
等級1は建築基準法で定める最低限の耐震性能。震度6〜7の地震で倒壊しないレベルです。等級2はその1.25倍、学校や避難所に採用される強度。そして等級3は、消防署や警察署などの防災拠点相当で、最も高い基準になります。
リノベーションでは、構造体の制約上、等級2を目標とするケースが多いですが、基礎や構造が良好であれば、等級3相当を実現できる例もあります。自宅をどの程度の耐震性能にしたいかを、生活地域の地震リスクや家族構成と合わせて考えることが大切です。
旧耐震住宅の注意点
とくに注意すべきなのが、旧耐震基準(1981年5月以前に建築確認を受けた住宅)です。この時期の建物は、壁量計算が簡易的で、バランスよりも見た目を優先した間取りが多く見られます。
筋交いが少なく、柱と梁の接合も金物補強がないため、地震エネルギーを分散できず倒壊リスクが高まります。
さらに、当時の基礎は無筋コンクリートが一般的で、地震時の引張力に耐えられない場合もあります。
こうした旧耐震住宅をリノベする場合は、耐震診断をより詳細に行い「壁補強」「基礎補強」「屋根軽量化」を組み合わせて段階的に強度を上げるのが現実的です。
また、構造図や建築確認図面が残っていない住宅も多く、診断精度を上げるためには現地調査に時間をかける必要があります。図面なしリノベほど慎重な計画が求められる分野はありません。
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耐震改修でできること・できないこと

リノベーションで耐震性能を高めることは可能ですが、どんな建物でも新築同等の強度を実現できるわけではありません。建物の基礎や骨組みの状態、そして構造バランスの良し悪しによって、上げられる等級には限界があります。
耐震改修とは、既存の構造体を生かしながら弱点を補強する作業。つまり「ゼロから組み直す新築」とは異なり、現在の躯体を最大限に活かすことが前提になります。
この制約を理解したうえで、どの部分を補強すれば効果的かを見極めることが、実務的な耐震リノベの肝といえます。
壁量を増やす「耐力壁補強」
最も基本的で効果が大きいのが、耐力壁の追加や補強です。耐力壁とは、地震や風による水平力に抵抗する壁のことで、住宅全体の倒れにくさを左右します。
具体的には、既存の壁の裏面に構造用合板を貼る、筋交いを追加する、制震ダンパーを組み込むなどの方法があります。ただし、単純に壁を増やせばいいわけではありません。
家全体のバランスを見て配置しないと、力が一方向に集中して逆にねじれが発生することもあります。間取り変更を伴うリノベでは、壁の位置が変わるため、補強設計時に新しい耐力壁配置の計算が欠かせません。
この工程で構造計算ソフトを用い、既存壁・新設壁の耐力を数値化して全体の剛性を整えるのが、現代の耐震リノベの基本です。
接合部・基礎の補強
耐力壁の次に重要なのが、柱と梁・基礎をつなぐ「接合部補強」です。地震で最も壊れやすいのは、柱脚・柱頭と呼ばれる接合ポイント。ここに金物を追加し、力を分散させることで耐震性能が大幅に向上します。
また、基礎のひび割れや浮きがある場合は、部分的な増し打ちや炭素繊維シート補強で強度を再生します。古い木造ではアンカーボルトが不足していることが多く、柱が基礎から抜け上がる「ホゾ抜け」を防ぐための金物補強も重要です。
床下からの作業スペースが確保できれば、在宅のままでも工事可能なケースが多く、床を剥がさずに金物を増設する工法も増えています。ただし、基礎全体に損傷がある場合や床下が狭い場合は、一部の床解体が必要となるわけです。
屋根軽量化による耐震バランス改善
耐震改修は加える補強だけではなく、減らす工夫も有効です。その代表が「屋根の軽量化」です。
建物の上部が重いほど地震時の揺れが大きくなり、構造全体に負担がかかります。古い和瓦屋根を軽い金属屋根やスレート屋根に替えるだけで、建物の重心が下がり、揺れ幅を10〜20%程度抑えられるケースもあります。
とくに2階建て木造住宅では、屋根の軽量化が最も効率の良い耐震補強といえます。また、屋根材を替える際に野地板や垂木を補強しておくと、上からの荷重分散が改善され、壁補強との相乗効果が得られます。
「支える力を強くする」と同時に「上の重さを減らす」という、このバランス設計がリノベーションでの耐震向上を現実的にする考え方です。
耐震改修にかかる費用・補助金・進め方

耐震リノベーションは、構造補強の内容や住宅の規模によって費用差が大きくなります。内装中心のリフォームに比べて「見えない部分」にコストがかかるため、初期段階で概算をつかんでおくことが重要です。
また、多くの自治体では耐震診断から改修までを支援する補助金制度があり、適切に活用することで負担を大きく抑えることができます。
ここでは、代表的な費用相場と補助金の活用方法、そして改修までの流れを順に整理します。
費用目安の相場感
木造2階建ての一般的な住宅を想定した場合、耐震改修の費用は100万円〜250万円程度が中心です。部分的な補強(耐力壁の追加・金物補強・屋根軽量化など)であれば100万円前後、建物全体を対象とした等級2〜3相当の補強になると200〜300万円台に達することもあります。
また、リノベーションと同時に行う場合は、内装の解体・復旧が含まれるため、単独での耐震改修よりも効率的にコストを抑えられます。工事の内容を「デザインリノベ」と「構造リノベ」で明確に分け、構造部分の優先順位を先に決めると、費用対効果を最大化できます。
「見た目よりも基礎を先に」が、長期的に見て最も賢い投資です。
耐震補助金・助成制度
耐震改修では、多くの自治体が診断・設計・工事の各段階で補助金を用意しています。たとえば、2025年度時点では全国の約8割の市区町村で制度があり、最大100万円前後の助成が受けられる地域も少なくありません。
一般的な流れとしては、まず耐震診断を受け、その結果「倒壊の可能性あり」と判断された住宅を対象に、改修計画を提出することで補助が適用されます。自治体によっては設計費や申請手数料も支援対象となり、トータルで費用の1/3〜1/2程度が助成されるケースもあります。
ただし、申請前に工事を始めると対象外になるため、必ず着工前に制度内容を確認し、申請手続きを完了させることが鉄則です。
申請書類や必要図面は工事業者や建築士が代行できる場合も多く、自己負担を抑えたい人は補助制度を前提に計画を立てるとよいでしょう。
診断から施工までの流れ
耐震改修の一般的なプロセスは、以下の5ステップで進みます。
- 耐震診断:建物の現況を調査し、壁量や基礎強度を評価。
- 補強設計:診断結果をもとに補強方法を決定(壁・基礎・接合部など)。
- 補助金申請:設計図と見積書を添付して自治体へ提出。
- 施工:1〜2か月ほどの工期で段階的に補強を実施。
- 完了検査・報告:工事後に行政検査または建築士の報告書で完了証明。
リノベーション全体の工程に組み込む場合、内装解体時に構造を確認しながら補強を行うケースも多く、全体工期は約2〜3か月が目安です。
なお、補強部分を見える化するため、完成後に「構造カルテ」や「改修証明書」を発行しておくと、将来の資産価値評価や売却時にも有利に働きます。耐震リノベは安心のための投資であると同時に、住宅の信頼性を可視化する手段でもあるのです。
等級はいくつまで現実的?耐震改修の“到達点”は個別診断で決める—まずは「リノベ建築工房」に相談を

耐震は「やれば必ず等級3」という単純な話ではありません。既存の基礎・柱梁の状態、壁量バランス、屋根重量、接合金物の有無しだいで到達点が変わります。一般的には、壁補強+接合部金物+屋根軽量化+必要に応じた基礎補修を組み合わせることで、等級2相当は現実的に狙えるケースが多く、躯体条件が良好なら等級3相当まで引き上げられることもあります。
重要なのは“診断→補強設計→段階施工”の精度です。どの壁をどれだけ強くするか、どの金物をどの位置に入れるか、どれだけ軽くするかを数値で決め、間取り変更と干渉しないように統合設計します。
リノベ建築工房では、現地調査で壁量・偏心・基礎の健全度を可視化し、費用対効果の高い順に「やるべき補強」と「やらなくてもよい工事」を切り分けます。デザイン改修と同時に行えば解体・復旧の重複を省け、コスト最適化も可能です。等級の“上げ幅”がどこまで現実的かを最短で知るには、まずは無料の一次相談で到達シナリオを描くのが近道です。
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